黒木真二コラムvol.1 ジャッキーチェンの映画『ミラクル/奇蹟』

初めまして、黒木真二です。日本と中国で役者活動をしている僕ですが、もっと中国映画の魅力をみなさんにも知っていただこうと、ここで映画に関するコラムを書かせて頂こうと思います。 今回ご紹介するのが、1989年に公開のジャッキーチェンの映画『ミラクル/奇蹟』です。僕が中国で役者活動を始めるきっかけとなったのがジャッキーチェンで、中学の頃からハマり始めました。1997年頃なので他のジャッキーチェンファンに比べるとハマるのが遅いですが、ハマり方が尋常ではなく、ファンクラブにも入り、中学から大学までほぼ毎日のようにジャッキーチェン映画を繰り返し見まくっていました。なので、ジャッキー映画に関しては今更映画を見直したりしなくても何でも書けるぞ!ということで、何を書けばいいのか分からない第一回目は、ジャッキー映画の紹介に決めた次第です。 数多くのジャッキー映画の中でこの作品を選んだのは、この映画が日本で意外に知られていない、という理由のためです。 この作品はジャッキーチェンが主演・監督・脚本を担当しており、ジャッキーチェン自身が今でも監督として一番気に入っている作品としてこの映画を挙げています(ちなみにアクションに関して気に入っているのは『ポリスストーリー』)。僕も人生で初めて買ったDVDがこの作品でした。ストーリーもアクションもとっても素晴らしいのに、日本では『プロジェクトA』や『ポリスストーリー』、『酔拳』などと比べてあまり人気がありません。なので今回は、我が人生の師匠ジャッキーチェンの渾身の作品、『ミラクル/奇蹟』をご紹介します!   この作品は実はアメリカ映画のリメイクです。もとの作品はフランク・キャプラ監督の『一日だけの淑女(1933年)』、そしてフランク・キャプラ監督がセルフリメイクした『ポケット一杯の幸福(1961)』で、ギャングのボスが貧しい初老の女性のために一肌脱いで全力で助けるというストーリーです。『ミラクル/奇蹟』では舞台を20世紀初頭の香港に移し、内容もジャッキー色たっぷりなアクションコメディとなっています。 田舎から職探しに出てきた郭振華(ジャッキーチェン)が、いきなり詐欺に遭って全財産を失い、そしてギャングの闘争に巻き込まれます。その時助けた死にかけのボスの指名を受けて、新たにそのギャングのボスに就任、そこからストーリーが動き出します。 20世紀初頭の香港はイギリス植民地として華南地域の重要な貿易の窓口となっており、さらに中国大陸から多くの難民が流入してきて、活気がありながらもカオスな状態だったのだと思います。映画の冒頭では、董大千(トンピョウ)が工場でスタッフを大勢募集と叫びそれを聞いて多くの求職者たちが集まり、その場で紹介料を払って工場の住所を書いた紙を渡されます。指定された日時にその場所に行っても、そんな会社はないと追い返され、そこで詐欺に遭ったと理解します。この時に郭振華は詐欺師、董大千に持っていた札束を見られたためカモにされ、全財産を紹介料として払ってしまうわけです。ただ、これが詐欺だと判明した時、郭振華は苦笑いして「香港か」と一言。当時はこのような詐欺が横行していたのかもしれませんね。 全財産を失った郭振華はここでバラ売りの夫人、高夫人(帰亜蕾)に出くわします。詐欺のせいでお金も残り少なく途方にくれていたところに、幸運のバラだと言って一輪のバラを売って来たこのおばちゃん。郭振華は優しい言葉をかけられて、残り少ないお金でそのバラを購入。とその瞬間、ついさっきまで座っていた場所に車が突っ込んできて命拾い。ここから郭振華は高夫人のバラは幸運のバラと信じることになります。 この部分が、この映画の重要ポイントです。郭振華はこの先も高夫人のバラは幸運のバラと堅く信じて毎日欠かさずバラを買い、いつも幸運をもらっていると高夫人に恩を感じるようになるわけです。原作であるフランク・キャプラ監督の『一日だけの淑女(1933年)』、『ポケット一杯の幸福(1961)』もここは同じ。アニーという女性から幸運のりんごを買うというのがポイントです。 この後郭振華がギャングのボスになるわけですが、ボスになってからも、大事な用事があってもバラの購入を優先させ、高夫人がいなければ自ら高夫人をわざわざ探しに行きます。もともとギャングの世界の人間ではないので、心はとっても優しいんです。この辺の優しさはジャッキー映画のジャッキーチェンの役柄ではほぼ共通ですね。一度部下に強引に止められバラを購入しなかった時に、他のギャングの攻撃に遭います。ただその闘争が起こるレストランに、たまたまそこの客が買っていた高夫人のバラがあり、それを掴んだ瞬間その闘争が終了します。このバラの存在の大きさは、DVDを買った当時高校生だった僕にはまだ理解できておらず、繰り返し見ていて発見できました。ギャングの攻撃がバラで終了するのはとても一瞬なので、見逃しやすいかもしれません。 話が飛んでしまいました。幸運のバラを購入して命拾いした無一文の郭振華が、ここから突然ギャングのボスになります。バラを買った瞬間突っ込んできた車はギャングの闘争によるもので、郭振華も巻き込まれます。優しい青年なため片方のギャングをとっさに助け、銃で撃たれたボスを担いで一緒に逃げます。ただこのボス、普段から胃痛がひどいんです。ギャングのボスともなれば、胃痛は絶えないのでしょう。そんな胃痛のボスを乱暴に肩に担いで逃げた郭振華、ボスは苦痛でもがき苦しみます。銃で撃たれたせいか胃痛のせいか、すでに死にかけのボス。ここで次期ボスと言われていた李志飛が「次期のボスに誰を推しますか⁉︎」と質問、でも死にかけのボスは胃痛でそれどころではなく、担いで胃を押した郭振華に憎しみの表情を浮かべて指を差し、「コイツ…(胃を)押した」と言って絶命。周りで聞いていたギャング達は、ボスがこの郭振華を『ボスに推した』と受け取り、いきなり郭振華がボスになるわけです。 日本語字幕では「押した/推した」の聞き間違いを利用していますが、広東語では胃と位(地位)が同じ発音で、「俺の胃(地位)はコイツに…(押された、と続くがその前に絶命)」という感じで、ボスの地位を指差していた郭振華に譲ったものと誤解されます。うーん、外国映画の字幕ってこういう時大変ですよね。 そういう誤解から、無一文からいきなりギャングのボスになっちゃった郭振華、郭振華自身も周囲のギャングも初めの内は戸惑いながらも、得意のカンフーで力を見せつけて少しずつ受け入れられていきます。 長々と話しましたが、ここまでが最初の話の始まり部分です。フランク・キャプラ版はこの『普通の青年が急にギャングのボスになる』という内容はありません。ジャッキーチェン版ではこの序盤にこの内容を入れ、後につながる様々な設定が盛り込まれています。アクションもありますが、この時点ではまだまだ本気を出していません。   ボスになった郭振華ですが、ただもともとギャングではなく優しい男なので、間違ったことは犯しません。初めての演説でも「法は犯さないように」と言って部下たちに「新しいボスはユーモアだ」なんて笑われたり。この映画の中でもジャッキーチェンは正義の味方です。そして毎日欠かさず高夫人のバラを買います。ギャングになって初めてバラを購入する時に物乞いが登場します。それを演じているのがなんとユンピョウです。ストーリーに全く関係なく、急に出てきてその後全く出て来ない、完全な友情出演。実はこの『ミラクル/奇蹟』の魅力の一つが、当時の香港スターが多数出演していることです。重要な登場人物はもちろんのこと、ユンピョウのようにたったワンシーンのみでスターが出てきます。たとえば冒頭で詐欺師が指定した工場で「そんな会社はない!お前ら騙されたんだ!」と叫ぶのがジャッキーチュン(張学友)だったり、高夫人の友人としてちょっと出てくるのがリッキーホイ(許冠英)だったり。そういう部分でもこの映画は当時注目を浴びた作品でした。 そしてギャングのボスとしても上手く振る舞い、さらには楊露明(アニタムイ)と出会い、彼女を使ってナイトクラブを開き、商売でも成功を収めます。ここで登場してきたアニタムイさん、この映画での掛け合いバッチリ、とても息のあったシーンをいくつも見せてくれており、ジャッキーチェンとはこの映画の後にも『酔拳2』や『レッドブロンクス』でも共演することとなります。2003年に40歳という若さで亡くなった彼女ですが、歌手としても一流です。この映画の中でナイトクラブで歌って踊るシーンがあり、その曲がそのままこの映画の主題歌となりました。『♫ローズ ローズ アイラブユー♫』と、この映画のキーになるバラを歌った曲です。ナイトクラブでこの曲を歌って踊るアニタムイも素晴らしいですが、この曲が流れている後ろで、ギャングのボスとして活躍していく郭振華の様子がダイジェストのように流れます。ダイジェスト的なシーンなのに、この辺もとっても凝っています。 郭振華のボスっぷりが安定してきた矢先、バラ売りの高夫人が見当たらないという事件が起こります。もともとカゴを持ってバラを売り歩いているので、「遠くまで売りに行っているのかもね」なんてなりそうですが、郭振華にとっては自分を守ってくれる大切なバラです。バラ無しでは他組織との会議には行かない!と頑固な郭振華、視聴者としては「そうだ!会議よりもバラを絶対優先すべきだ!なんで部下たちはそれを分かってくれないんだ!」なんて思ってましたけど、実際に現代社会で「バラ買えなかったので会議欠席します」なんて許されるはずがありませんよね。今改めて考えると、バラ一本に振り回される部下たちの気持ちがよく分かります。 ちなみに最初から最後まで一番振り回されているのが、ウーマ(午馬)演じる海叔。前のボスの時から秘書的な感じでこの組織を支えていた海叔、郭振華がボスになると、振る舞い方から着こなし、仕事の仕方など全てを教え、敵対する組織との会談などスケジュールも全て管理。たぶんとても有能なんでしょうが、ボスがギャングらしからぬ性格で変なこだわりをもっているため、振り回される様がとってもコメディ。2014年に亡くなったウーマさん、実は僕は2011年に一度だけウーマさんにお会いしたことがあります。中国の地方での撮影中、たまたま中国の飲み屋で会ったんですが、ウーマさん超有名なベテラン俳優なのに偉ぶらずとっても謙虚な方でした。そしてとってもお酒が強い!中国では挨拶がわりにお酒を一気飲みするんですが、有名な方なので大勢の芸能関係者が挨拶しにきます。その全ての挨拶一気飲みを全てこなしていました。シリアスもコメディもこなす役者さん、学ぶところがとても多いです。 ボスのわがままで高夫人を探す部下たち、ようやく見つけた場所は、とてもボロボロの住居群の中でした。貧乏な人たちが寄り添って住んでいる地域ですね。高夫人はそこにある部屋で寝込んでいてバラを売りに行けなかったことが判明します。体調悪い時くらい休ませてあげればいいのに、なんて思う人もいるでしょうが、体調の悪い原因がありまして、その理由が「娘にウソがばれてしまうから」です。なんて言い方してしまうとなんかバカっぽいですが、ウソにも理由があるわけです。 その理由も映画の中の重要ポイントです。高夫人には娘がいて、娘は上海で就学中。バラ売りで稼いだお金を仕送りしていて、その手紙の中では、自分は高級ホテルに住んでいて、頻繁に名士とのパーティに参加している、などと全く嘘の内容を買いていたのです。お金の心配はせずに上海で学んで欲しいという母の願いなのでしょう。上海に留学する前、母親と一緒にいた時の暮らしぶりはどうだったのか?娘と離れて暮らすようになってから貧乏になったのか?などと疑問も出てきますが、おそらくかなり前から別々に暮らしていたのかもしれません。中国では今でも親が子供を親戚に預けて都会に出稼ぎに行くことが珍しくありません。この高夫人と娘の関係もそういうことなのかもしれません。この映画の舞台である20世紀初頭の香港は中国大陸から渡ってきた人がかなりいて、人が増えすぎて出稼ぎに来ても仕事はなかなか見つからなかったようです。せっかく来たのに仕事に就けずバラを売るしかなく、貧乏な身分になってしまった、そんな感じかもしれません。 そんな嘘をつき続けていた所、娘が母親に会いにくることになったのです。しかも彼氏とその父親が結婚話をまとめるために3人一緒に香港に来るというのです。さらにその彼氏の父親は上海の名士。もし娘が香港にくれば嘘がバレるし、母親の身分を知って結婚話も破断になってしまう、という心配から、高夫人は寝込んでしまったわけです。そこで登場する我らがヒーロージャッキーチェン 。郭振華はいつも幸運をもらっているお礼をするために、高夫人を助ける決心をします。ただこのミッションは思っていたよりも大変で、ここからさらなるドタバタ劇が繰り広げられることとなります。   この時すでに郭振華の恋人となっている踊り子の楊露明が、高夫人の嘘を隠すための手配を始めます。まずは手紙の嘘で出て来る住居の高級ホテル。ここで楊露明が手配したホテルを歩いて見て回るシーンが出て来ます。エレベーターから出て来ていくつもの部屋を通り、グランドピアノを少し触ってベランダに出る、というワンカットのシーン。実はこのシーンにとてもお金をかけているそうなんです。まずはこのホテルのセットがデカくてキレイ。ただ大規模セットはこの映画ではこれだけではありません。繁華街のセットやナイトクラブのセット、最後のアクションで出て来る紡績工場などなど全部大規模。なのでこの映画に関しては大規模セットは普通なんです。この高級ホテルのカットでもう一つ特別なのが、ホテルの室内からベランダに出るのもワンカットの中に収まっているということです。普通に見ていたら全く気づかない部分ですが、室内の明るさと室外の太陽の明るさは差が大きく、普通はカメラの設定を変えなければちゃんと撮れません。テレビ東京の『モヤモヤさまぁ〜ず2』という街ブラ番組では、出演者がしゃべりながら室内から室外へ出ることが度々あり、出た瞬間に画面全体が真っ白に。でもすぐにカシャカシャという音がなり(フィルターをかける音)、また普通の明るさに戻ります。でも映画ではそんなことはせず、室内シーンと室外シーンを分けて撮ります。それを、『ミラクル/奇蹟』のこのシーンではワンカットで収めているのです。どうなっているのかというと、ベランダの外に光を弱らせる膜を張っているらしいです。撮影現場ではよく使う道具ですが、ここで出て来るベランダに出た後の景色はだだっ広いんです。広いベランダから見える広い景色の部分全部に膜を張るわけですから、相当に大規模です。現場がどのような状態になっていたのか想像もつきません。そして楊露明の歩きに合わせてカメラも動いて行くんですが、これはステディカムを使っています。ステディカムというのは、カメラマンがカメラを担いで撮影する際に、動いた時のブレを少なくして画面の動きをスムーズにする道具です。今はとても手軽なものもありますが、以前はとても大きな装置で、それをカメラマンが体に固定して移動するというものでした。なので、重くて大変なんです!そんな状態で楊露明の早歩きに合わせて動いて撮っているんです。30秒のそんなに長くないカットですが、それだけに3日もかけたそうです。カメラマン大変!そして最後のNGシーンにその撮影の様子が出て来ますが、ステディカムを担いで撮っているのはなんとジャッキーチェン!3日間全てジャッキーチェンがカメラを回していたのかは不明ですが、これでジャッキーチェンの頑固なこだわりとマルチな才能が見て取れます。 もう一つこだわりの大規模シーンというのが実はあって、それが大規模セットの一つナイトクラブでのシーン。楊露明がナイトクラブで歌って踊るステージから、カメラは回転して観客席に向き、敵対するギャングが席を立ち、それを部下たちが階段で2階に上がり郭振華に報告、2階の郭振華が窓から顔を出し、カメラがまた回転してステージを映す、というシーン。横移動の幅も大きい上に1階から2階までカメラが移動し、さらに2度も回転しています。今ならドローンなんて物があるのでこういうシーンも簡単かもしれませんが、当時はそんなものはありません。これはクレーンを使って撮っており、上下の移動もスムーズなんですが、大きな横移動があり、さらに回転しています。回転することでクレーンやそれを操るスタッフが映りそうなもんですが、キレイなシーンに仕上がっています。このワンカットだけで映る人物も何十人もいるし、セットの幅が大きいのでピント調整も大変なはずです。そんなシーンを普通な感じで入れており、僕もこのシーンの大変さはメイキングを見るまで気づきませんでした。 かなり脱線してしまいました。高夫人の嘘を隠すための工作でしたね。ホテルを用意したら次は身なり。まさに貧乏な身なりだった高夫人が生まれ変わり、さらに高夫人に嘘の再婚相手を用意します。ここで出て来るのが、最初に郭振華を詐欺で無一文に陥れた董大千。これを演じているのが、ジャッキー映画ではお馴染みのトンピョウ(董驃)さん。最初に詐欺師として出て来た時には「この人もこのワンシーンのみのカメオ出演⁉︎」なんて思いましたが、こうして嘘の再婚相手として再度登場してくれました。2006年に亡くなったトンピョウさん、コメディな役柄がピッタリでした。この映画の中でも面白い絶妙な演技をたくさん見せてくれています。このトンピョウ演じる董大千とこの後絡んで行くのが、警察の何国梁。これを演じるのはリチャード・ン(呉耀漢)さん、こちらも香港映画ではお馴染みのコメディ俳優です。ヒゲ面とシャクれた顎が特徴のリチャード・ンさん、こちらもジャッキーチェンと何度も共演しており、そして毎回面白いです。『ミラクル/奇蹟』では警察を演じていますが、またそれがいい感じです。始めのうちはギャング同士の闘争中やナイトクラブに現れてギャングの逮捕を目論むんですが、高夫人の娘が来てからは、董大千と絡むことになります。というのも、この何国梁は高夫人の娘と一緒に上海から来た名士、顧新全に取り入ろうとするために、郭振華の周囲に度々現れるのです。ただ何国梁と顧新全を会わせると高夫人の嘘がバレてしまうので、顧新全の替え玉になったのがこのトンピョウ演じる董大千。しかし董大千はもともと詐欺師なので、何国梁はどんどん振り回されていきます。その2人の掛け合いも最高です。 ホテル、身なり、そして再婚相手も手配して、いざ高夫人の娘、貝児と彼氏、そしてその父親顧新全を出迎えます。母と子の再会を目にして感動したのもつかの間、ここからが大変。いろんなトラブルが起き、いろんな矛盾が生まれ、それを強引に解決して行きます。強引その1、暴力!ギャングなので慣れているのかもしれませんね。例えば、上海からの高夫人の娘たちを出迎える時に、名士の顧新全にお近づきになろうとする警察、何国梁とその部下2人も迎えに来ます。彼らをこの場から追い出すために、ギャングの部下たちに痴漢行為をさせたり、何国梁の目の前で部下同士でケンカを始めたり。警察なので本当はそっちを優先して解決すべきなのに、何国梁は動きません。で、最終手段が、何国梁への直々の暴力。自分が暴力を受けたとあっては黙ってはいられず、自分を殴った犯人を部下を連れて追いかけます。この手は後にももう一度使います、とっても便利な方法。強引その2、拉致!ギャングでもそうそうしないでしょう。顧新全は上海の有名な名士なので、多くの記者が取材に来ます。ちょっとの暴力で追いかけて来るわけでも諦めるわけでもないので、拉致しちゃいます。なんともストレート!ちなみにこの拉致される記者も香港の有名スターのカメオ出演です。この拉致は何度も繰り返されます。こんなことしてまで高夫人の嘘を守るとは!優しいのか優しくないのか分かりません。さらには替え玉を使ったり、電話で無理やり話を誤魔化したり。そんな強引な方法で危機を乗り越えて行きます。   そして最大の危機が訪れます。高夫人と顧新全が話し合い、貝児たちが上海で挙式を挙げることが決定し、貝児と彼氏、顧新全たちは上海に戻ることになりました。ただ顧新全は、自分は高夫人の友人たちにまだお会いできていないので、ぜひ高夫人の名士の友人たちを招いて祝賀パーティーを開きたい、と言い出したのです。何も考えずにそれに同意しちゃった郭振華、すぐに大変なことになったと気付きますが時すでに遅し、名士たちを呼べるはずもなく、秘密を隠せない、秘密をバラすしかない!というところまで行きますが、そこで郭振華が香港ギャングたちに名士を演じさせる、なんていう迷案を思いつきます。ここからまたドタバタが加速!ここで思うのが、すみません、いろいろ事情があってパーティーは開けないです、っていうのはダメなのかなと。見た所顧新全は本物の名士なので、とても余裕があり寛大な感じです。やっぱりパーティー開けないと言ってもそれで結婚を破談にするような人じゃないと思うんですが。。。と、そんな細かいところを気にしていては映画を楽しめません。秘密を守りきるために、パーティーをやるんです! そしてギャングにタキシードを着せて、マナーを教えて、役職を割り当てて練習!ただそんな簡単に行くはずもありません。上海の名士なので中国標準語を話さないといけないとか、割り当てられた役職に対してあいつよりも偉い役がいい!なんて子供みたいなケンカを始めたり。そんな言うことを聞かないギャングたちに、郭振華が説得します。将来子供ができた時に、その子供に胸を張って話せることをお前らはしてきたか!いつも悪さしているお前らだが、今回人助けをしてみろ!と。熱く語ります。ところでジャッキーチェンはあるインタビューで、映画の中には常にあるメッセージを盛り込んでいると言っています。環境問題だったり道徳問題だったりしますが、映画の中のどの部分がそのメッセージなのかよく分からないことが多いです。この『ミラクル/奇蹟』のメッセージは何なのかと考えた時に、この一生に一度の良いことをしろ!というメッセージがそれに当たるのかなと思いましたが、一生に一度って少ないなーとも思ったり。皆さんもこの映画を見た時には、その辺も少し気にして見てみてください。ちなみにこの名士の練習をするギャングたちの中にも、香港スターたちが登場しています。 そんな中、敵対するギャングや、郭振華のせいでボスになれなかった李志飛の企み、さらにはギャングを捕らえようと必死な何国梁が、ギャングたちが名士になる練習をしているナイトクラブを包囲したり。トラブルが続々起きて、もうダメだ!真実を話すしかない!とまでなります。ここからどうなるのかは、実際に映画を見てご確認ください。 この映画の中では、もちろんアクションも全開です。ただ他のジャッキー映画と比べるとアクションは少なめです。長いアクションシーンが3つ、短いのが2つ(数え間違いがあったらすみません)。日本でこの映画の人気が低めなのはこのせいかもしれません。実際僕のジャッキーチェンファンの友人も、これを理由に評価低めでした。でもアクションシーンが少ない分、内容がとても濃い!と僕は思います。何度このアクションシーンを繰り返して見たことか。 ジャッキーチェンのアクションと言えば、ブルースリーやジェットリー、ドニーイエンのようなザ・カンフーというものではなく(もちろんそういうのもありますが)、いろんな特殊な状況下の中で、周りの環境や道具を上手に使ってアクションを繰り広げます。毎回毎回とても新鮮で面白いアクションを見せてくれるわけですが、この『ミラクル/奇蹟』でもそれは変わりません。僕が一番好きなのが、中盤で出て来るレストランの1階から2階縦横無尽に暴れまわる、タイガーのギャングたちとのアクションシーンです。階段を使った動きが格別!そして最後のアクションもすばらしい!紡績工場でのアクションで、複雑な工場施設で暴れまわります。工場にあるいろんな機械やロープを上手に使ってアクションします。どちらも1対大勢のアクションで、テンポも動きの豊富さもそして力もあるアクション、でもコメディ感たっぷりで残虐性は皆無、誰でも楽しんで見ることができます。 ただ、他のジャッキー映画と違うのが、最後のアクションが映画のクライマックスではないところですね。他の作品では最後の最大の見せ場アクションシーンが終わって間も無く映画も終了しますが、この映画は、アクションの後にまだまだ大事な場面が続きます。最後の最後まで飽きさせません! そしてスタッフロールではお馴染みのNGシーンが流れます。ジャッキー映画の一つの特徴にもなっているこのNGシーンですが、実はジャッキーチェンのアイディアではありません。ジャッキーチェンがハリウッドの『キャノンボール』という映画に日本人役で参加した時に、その映画で使っていた手法です。ただジャッキーチェンとしてはNGシーンにちゃんとした意義を持っています。一つは自分のやっているアクションが本物だと知ってもらうため。もう一つはアクションは危険だから真似しないように!という注意喚起のため。この映画のNGシーンも痛〜いNGだらけ。本編のアクションシーンが残虐ではない分、NGシーンの方が痛々しいです。 最初から最後まで魅力たっぷりの『ミラクル/奇蹟』、9ヶ月もの長い時間をかけて作っています。ジャッキー映画としてはめずらしい2時間越えの作品です。この文章を読んでから映画をご覧いただくと、ジャッキーチェンの細かいこだわりや、ジャッキーチェンが今でもこの作品を気に入っている理由を実感できると思います。見たことのある方も、ぜひもう一度見直してください!最高です! ■筆者プロフィール:黒木 真二 俳優 ジャッキー・チェンに憧れ、鹿児島県立鶴丸高等学校を卒業後、大阪外国語大学で中国語を専攻。卒業後の2007年より北京市の中央戯劇学院に留学し、中国で俳優活動を開始する。2014年に拠点を東京に移し、オフィス佐々木に所属、日本での活動も開始する。2015年より、中国江蘇衛視のトーク番組『世界青年説』に日本代表としてレギュラー出演。自身で『二重丸◎日本版』というネット番組を製作し、中国に向けて日本を紹介している。        
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